※アーサー×アイザックの関係前提の会話が含まれています。
エアライヒ加入ルート、アイザックとエアライヒの会話が主です。
無印版時代に書いたものなのでアイザックが大人しいです…。
当時小話として書いたものなので、文体とかがアレなのは許してください…。
(少しだけ修正はしました)
テルミナ州へ来て、湖の付近で倒れている女性を助けてから数日。バルマンテは招待されて屋敷を行き来したり、女性の頼みを受けたりしている。
「うむ。これで頼まれた壺は両方破壊できたようだな。」
「はぁー…疲れたよ…。今日は遅いし近くの街で休もうよー。」
「そうだな。屋敷へは日が明けたら行くとしよう。」
いつもと変わらず生真面目に仕事をこなす処刑人に書記官が緊張感の無い返しをしながら、皆が街へと足を向けている中、アイザックは一人無表情で遠くに見える屋敷を眺めていた。
(……あの女を信用していいものなのか…)
壺を破壊してから、明らかに屋敷の空気が変わっていった。アイザックが遙か遠くから屋敷を眺めていても変化が分かるくらいだ。
「アイザック?何ぼーっとしてるの。置いていくよ?」
「……っ!? …なんだアンタか。」
背後から突然アーサーの声が聞こえ、驚きを隠せないアイザックだが、すぐ表情を戻し彼の方へと振り返る。
「…ちょっと寄りたいところがあるから、先に行っててくれないか。」
アイザックの言葉に、アーサーは怪訝な表情を浮かべる。
「まさか、1人で先に屋敷に行くとか言うんじゃないよね?」
「…屋敷になんか、アンタ達と一緒でも行きたくないくらいなんだが。」
「ふぅん……ならいいんだけど。」
アーサーはそう言うと、アイザックの耳元に顔を近づける。
「どこかに寄るのは構わないけど…用事が終わったらちゃんと街に来るんだよ?…僕のところにね。」
「……アンタ……疲れたから『街で休もう』って言ったんじゃないのか。」
「だから『街』で休むんでしょ?あそこの屋敷でして欲しいなら話は別だけど。」
「……。…用事が済んだらそっちに向かう。」
「…うん。じゃぁ先に行ってるよ。」
アーサーが去った後、アイザックは深い溜め息をつく。
「バルマンテに付き添って屋敷を行き来していたから、しばらくは安心して1人で眠れると思ってたんだが……結局こうなるのか…。」
「あんな禍々しくなった屋敷になんか誰が行くか。……でも気になるんだよな……」
吐き捨てるように独り言を呟くと、アイザックは視線を湖へ向ける。湖には一人釣りに明け暮れている男がいた。バルマンテが女性から頼まれた仕事をこなしていた際に、色々と忠告をしてきた人だ。
「あの女の振る舞いに比べると、あの人の目は本気…なんだよな……。本気…とは別の目のような気もするんだが……」
特に話すつもりはなかったが、湖へ向かって足を運んでいるうちに、気配に気付いたのか釣り人と目が合った。
「……先程は忠告をどうも。」
「誰だお前は? あぁ…あのいかつい男と一緒にいた奴か。」
「アイザック……だ。」
「……俺はエアライヒだ。何か用か?あんたら壺も壊しちまったし、俺からはもう何も言う事はないんだが。」
釣り人……エアライヒは冷めたような目でアイザックを見あげている。睨んでる…という視線ではなく、遠くを眺めるようにアイザックに視線を向けていた。
「アンタは…あの女を『魔女』と言ってたが……なんでそんな事を知っているんだ?」
「……俺は長い間ここにいるからな。今まであの女に何があって、あの屋敷で何があったのかを知っているだけだ。」
「……そうか。確かに屋敷には誰もいなかった。アンタが忠告してきた言葉は真実なのかもしれないな。」
エアライヒは何も言わずに視線を湖へと向けると、先程遠くから眺めていた時と変わらず釣り糸を湖面に投げて遠くを眺めている。
少しの沈黙の後、アイザックは釣りをしているエアライヒの隣に座って口を開く。
「……なぁ。あれだけマメに忠告してくれるくらいだ。自分でなんとかしようとは思わないのか?」
「……釣りしかしてないただの人間一人が、魔女に対抗出来ると思っているのか?」
「なら、俺達についてくればいいじゃないか。一緒に行くなら相談してきてもいいぜ。」
「……。」
エアライヒは無言で虚空を見つめていた。
「はい」と答えないという事は、この人は魔女を倒したくない…という事なのか?
明らかに忠告は『魔女を倒して欲しい』だ。
でも…なんでだ?この人の顔はまるでそれを拒否しているように見える。
本当に救って欲しいのは……もしかして、自分…なのか?
「エアライヒさん。ひとつ。質問していいか?」
「…なんだ?」
「アンタ、家族は?」
虚空を見つめていたエアライヒの顔が少し歪んだ。だがすぐに表情を戻し、虚空を見つめたままこう答える。
「…随分前に死んだよ。」
その顔と言葉で、アイザックは顔色を変えずに立ち上がる。
「…そうか。悪い事聞いてしまったな。」
「いや…別に構わない。」
「色々聞いてしまってすまなかったな。」
「俺の方こそ…久々にこうやって人と話せて、少しは気が紛れたよ。」
エアライヒは少し笑みを浮かべた。それを見てアイザックはエアライヒに背を向けた。
「明日、あの屋敷へ行く。アンタの忠告、最後まで聞かなくて申し訳ないな。」
「……。気を付けて…な。」
アイザックはそのまま街へと向かい、朝が来るまで浅い眠りについた。
朝が来て屋敷へ向かったバルマンテ達は、本性を現した女性──魔女クライサと対峙する。
バルマンテはずっと魔女の頼みを聞いて動いていた。おそらくこのままだと魔女の事を信じてしまうかもしれない。
アイザックはバルマンテの耳元へ近づいた。
「バルマンテ、聞いてくれ。あの人は魔女だが、俺達には何もしてきてないから無害だ。」
「そうだな。」
「だが、屋敷の外にあった墓場の数を考えてくれ。そして…おそらく生きている『家族』が今もずっと苦しんでいる。」
「…何が言いたい?」
「俺は……忠告してくれた、あの釣り人を信じたい。」
バルマンテは少しの沈黙の後、アイザックへ顔を向ける。
「信じる……か。普段何も言わないお前がそこまで言うのも珍しい。俺も信じてみよう。」
バルマンテは担いでた斧を手に取り、構えた。それを見た護衛団も次々に武器を構えて魔女へ向かっていく。
『バルマンテは俺を信じてくれた。ならあの人から恨まれる役は……俺が引き受ける。』
そう心の中で呟き、アイザックは魔女の心臓をめがけて矢を放った。